桃始笑|ももはじめてさく|桃|桃太郎|木蓮|辛夷|こぶし

歳時記

桃始笑 ももはじめてさく




七十二候も春を感じさせてくれる字句が多くなってきました。2023年は3月11日より啓蟄の次候、第八候の「桃始笑(ももはじめてさく)」に移ります。
桃は中国原産弥生時代に日本伝来したものですが、古来中国では邪気を祓う神聖な木として仙木仙果と呼ばれ、不老長寿を与えてくれるもの信じられていました。
と同時にその影響で、日本でも古事記ではイザナミの死後のイザナギとの間の話で『ようやくイザナキ神が黄泉比良坂のふもとに来た時に、そこに生えていた桃の木から実を三つ取り、待ちかまえて投げつけたところ、雷神達は黄泉の国に帰ってゆきました。』という桃を鬼にぶつけた話などが書かれています。



桃始笑(ももはじめてさく)



桃のつぼみがほころび、花が咲き始める頃となりました。
ここで使われている「」という字は花が咲くことを意味しています。桃は梅と桜の間の時季に咲き出し、山野に彩を加えていきます。
ちなみに春の季語ともなっている「山笑う」も花ではありませんが木々の芽吹きを表しています。



ここでも春の訪れを感じ、心の昂揚感を表現する感性をあらためて感じることが出来ます。



桃の花



梅が咲いて、桜にはまだ少し早い3月の中頃、桃はほころび始め、旧暦のひな祭りにあたる4月中旬頃、ちょうど満開となります。



一般的には「モモ」というと採果用の品種の「実桃」を指し、花や樹を観賞するための品種は「花桃ハナモモ」と呼ばれます。
その観賞用のハナモモは、実は大きくならず、食べられません。



桃の花




桃の花は濃紅から白色まで色も様々であるとともに枝垂れ桃など品種も豊富で桜ともよく似ています。その違いと言えば、桜は花柄が長く枝から房状に花が咲き、花びらの先を見ると割れています。一方、桃の花は花柄が短く枝に沿うように咲き、花びらの先が尖っています



桜の花




桃か桜か迷ったら花びらの先を見てみると見分けがつき易いそうです。



桃色



桃色




桃色と言えば女性やセクシーなことを想起させられてしまいがちですが、実は万葉の頃から存在する伝統的な色目なのです。
古くは桃の花のような紅い花で薄く染めた色をいいましたが、今日では必ずしも桃の花等で染めた色のことだけではなく淡い赤色を呼んでいます。
海外でも桃の花のように鮮やかなピンク色をピーチブロッサムという色名が使われています。



桃太郎の出生の秘密



桃と言えば「桃太郎」。
どなたも詳細は正確でなくても大筋のあらすじはご存じと思います。



桃太郎




そのストーリーは「川に洗濯に行ったおばあさんが川上から流れてきた桃を持ち帰り、その桃から産まれたのが桃太郎で、、その桃太郎が成長しイヌ、サル、キジを家来にして鬼退治に行き、鬼が悪事の結果集めていた財宝を取り返し郷里に凱旋した」という典型的な勧善懲悪のお話ではなかったでしょうか。



このストーリーは明治以降道徳教育の材料として普及したお話で、それより以前ではとても栄養価の高い桃のタネの中にある「桃仁」をお爺さん共々食べたことにより若返り・精力がみなぎったため再び子作りもできるようになって産まれてきたのが桃太郎だったというお話が主流だったようです。



桃の種 桃仁




実際にも、桃の花や種子には、強い薬効作用があると言われ、花は「白桃花」、種子は「桃仁(とうにん)」という漢方薬として知られ、特に「桃仁」は、血のめぐりを良くし、とりわけ婦人病の改善に効果があるとされています。



辛夷(こぶし)と木蓮(もくれん)



桃の花と同様この時期見分けがつきにくい花ですが、愛でたい花のコブシ(辛夷)の話題もよく聞かれるようになります。



このコブシと非常によく似た花でハクモクレン(白木蓮)がありますが、桃と桜以上に見分けのつきにくい花です。
桃などは北海道・沖縄以外では梅→桃→桜と順序良く咲いてくれますが、コブシとモクレンは花期も重なっているためさらに見分けが難しくなっています。



辛夷 こぶし コブシ




そこで見分け方を紹介しておきたいと思います。
まずそれぞれの花についてですが、コブシは日本原産で花期は3月から5月色は白です。
一方、モクレンは中国原産で色は紫色と白色です。
モクレンは一般的に紫色のものを指し、紫木蓮(しもくれん)と呼ばれていて花期は4月から5月です。よくコブシと間違えやすい白色の方は白木蓮(ハクモクレン)と呼ばれ花期は3月から4月です。



ハクモクレン はくもくれん 白木蓮




こぶしともくれんの見分け方



それぞれの花や咲き方の違いをまとめておきます。



花が咲いている時の葉



コブシ・・・花の付け根に一枚の葉
モクレン・・花が終わってから葉が出てくるので花には葉がない



花の大きさ



コブシ・・・小
モクレン・・大



花の数



コブシ・・・多
モクレン・・少



花芽のつき方



コブシ・・・横向きか下向き
モクレン・・上向き



花の咲き方



コブシ・・・花弁が全開
モクレン・・すぼまり気味に咲く



このように若干の違いはありますが、一番の見分け方は



花の下に一枚の葉がある方がコブシ、無い方がハクモクレン下から見上げた時に花の中心が良く見えるのがコブシ、見えにくいのがハクモクレンと覚えていてください。



結詞



シモクレン しもくれん 紫木蓮




春は着実に近づいています。それでも寒の戻りで幾分冷え込む日もありますし、今年はスギ花粉の飛散量がとても多いと予想され、花粉症の方は大変な思いをされているかもしれません。



そんな中ではありますが、梅、桃、木蓮と春の訪れを知らせてくれる花たちを愛でる心を持ちながら本格的な春本番の桜や紫木蓮を待ちたいものです。



菜虫化蝶 なむしちょうとなる




暦は16日より啓蟄の末候「菜虫化蝶(なむしちょうとなる)」と移り、来るべき春の情景が脳裏に浮かんできます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました