菜虫化蝶|なむしちょうとなる|モンシロチョウ|蝶の一生|菜の花

歳時記

菜虫化蝶 なむしちょうとなる モンシロチョウ




2023年は3月16日より七十二候は第九候・啓蟄の末候の「菜虫化蝶(なむしちょうとなる)」に移ります。
啓蟄の次は二十四節気も「春分」へと進み、本格的春の到来ももう間近です。
一面に咲き乱れる菜の花などの花々の間をひらひらと飛び回る蝶たちは、まさに長い冬が遠く過ぎ去り、春の訪れを告げてくれるシンボル的存在のひとつです。この時季の蝶は、春の野にて一番最初に見かける蝶という意味で「初蝶」とも呼ばれるようです。



菜虫化蝶(なむしちょうとなる)



七十二候は、青虫が蝶になって飛び交い始める頃という意味ですが、ここにいう「菜虫」とは一般的にはアブラナや大根・蕪などの野菜などの葉を食べて成長していく蝶の幼虫のことを指しています。



菜虫化蝶 なむしちょうとなる




余談ではありますが、春になるとあちらこちらに咲いている菜の花は季節を知らせてくれるだけでなく、畑の土を殺菌する成分を持っているそうです。また大地を守り育てる力も持っていて土地改良にも使われています。
菜の花は単に春の象徴だけでなく、次の作物のための準備でもあります。



さて蝶にはたくさんの種類がありますが、それぞれ食べる植物は意外にも決まっているそうです。
例えばアゲハチョウの仲間で日本でよく見かけるナミアゲハはミカンなどの柑橘類、キアゲハはパセリやセリ科のニンジンというように食べ物が違うということです。







と言うことは遭遇したい蝶がありましたら、その蝶がたべる植物を調べてそれが生えているところで待ち受ければ、出会えるチャンスの確率がぐっとあがるようです。



その多種多様な蝶が美しい羽で自由に飛び回れるようになるまで、一体どんな一生を歩むのか、モンシロチョウを例に見ていきたいと思います。



モンシロチョウ




今では最も身近で見ることができ、親しみのある春の蝶というと「モンシロチョウ紋白蝶)」ですが、日本列島で爆発的に繁殖して広がったのは、実は20世紀半ば以降、戦後のことのようです。
20世紀に入って、アメリカ西海岸からハワイへ、そして沖縄へ、さらに戦後には日本全国へとキャベツの生産と共に広がっていったということです。



それ以前はモンシロチョウの原産地のヨーロッパからユーラシア大陸を東へ、そしてアジア各地に広がったようで、日本のモンシロチョウは 奈良時代に大根の栽培と共に入ってきたと言われています。



日本においては、古来、在来種でモンシロチョウと同じシロチョウ科モンシロチョウ属に属するの「スジグロシロチョウ筋黒白蝶)」が一般的なシロチョウであり、絵画や文献に登場する白い蝶は殆どスジグロシロチョウです。
つまり七十二候「菜虫化蝶(なむしちょうとなる)」で想起された「菜虫」はスジグロシロチョウの幼虫であり、スジグロシロチョウが、幼虫や蛹(さなぎ)で越冬し、暖かくなって蝶へと化した姿を表しているようです。



スジグロシロチョウ
スジグロシロチョウ




いずれにしろ、シロチョウ科の蝶の成虫は、3月頃から10月頃までの長い期間見られますが、実は一年の間に4~5回ほどの世代交代を繰り返していて、温暖な地域では年に7回発生することもあります。そのため暖かい間はいつでも見られる感じがするのです。
そして、最後の青虫は蛹(さなぎ)となって長い冬を越えるわけです。
モンシロチョウの一世代の寿命は、だいたい2週間くらいと言われています。その間にパートナーを探し、卵を産んで、子孫を残さなければならないというハードなサイクルです。



シロチョウは、青虫の大好きな葉の上に卵を産み、3~5日の卵期間を経てふ化した幼虫は先ず自分の卵の殻を食べ、菜を食べ始めてから体色が緑色となり、青虫となります。その青虫は、毎日モリモリと葉を食べて、何度が脱皮を繰り返しながら大きくなりますが、脱皮した時も自分の皮を食べてしまうそうです。



モンシロチョウ 蛹 さなぎ




幼虫は蛹(さなぎ)の中で空を飛ぶ美しい蝶へと変身しており、羽化により、外界へと羽ばたいていきます。



モンシロチョウ 羽化




幼虫と成虫では、容姿が大きく変わるだけでなく、食べるものまで全く変わってしまうことには、驚きを感じます。
9~11日間に渡って十分に栄養を蓄えた青虫は、サナギへと変化していきます。
春~秋であれば、約5~10日のサナギ期間を経た後、美しい蝶になることができます。
ただ外気温が下がる冬の場合はサナギで越冬し、次の春を待ってようやく蝶になります。



昔の人は、蝶のことを「夢見鳥(ゆめみどり)」や「夢虫(ゆめむし)」などと呼んだそうです。



古代中国の思想家・荘子の「胡蝶の夢」という説話に由来するといわれています。
その説話の内容ですが、『「本当の自分は蝶で、人間になっている夢を見ているだけなのでは」と疑い、人なのか蝶なのか区別がつかなくなる』というものです。



このことから転じてこの世の儚さや現実と夢の区別がつかないこととして使われます。



中国では蝶の劇的に変身する一生から輪廻転生や復活、長寿を想起させる象徴となっています。
また、日本でも死後肉体から抜け出た魂を極楽へと運んでくれ神聖な生き物、そして武家社会ではその神秘的な一生から不死・不滅のシンボルとされてきました。



日本の国蝶・オオムラサキ



蝶は世界中で約17600種、その内わが国では、最初に日本で発見され国蝶ともなっている「オオムラサキ」など、約60種の蝶がいると言われています。



その日本の国蝶「オオムラサキ」は、法律や条例で規定されたものではなく、日本昆虫学会が選んだものだそうです。
北海道から九州まで各地に分布し 生息環境が限られ、適度に管理された、やや規模の大きな雑木林を好んで生息する傾向が強いそうです。
都市近郊では地域絶滅の危機に瀕するところもある一方、山梨県のように今でも広域に見受けられる地域もあります。



オオムラサキの成虫は年に1回だけ6~7月に発生し、8月にも生き残った成虫を見かけることができます。



日本の国蝶 オオムラサキ




成虫のオスの翅の表面は光沢のある青紫色で美しく、メスはオスよりひと回り大きいですが、翅に青紫色の光沢はなくこげ茶色をしています。



食性はクヌギ、コナラ、ニレ、クワ、ヤナギなどの樹液に集まったり、クリ、クサギなどの花の蜜を吸ったりします。
時には腐果や獣糞などの汚物に集まることもあるそうです。



餌場での生態は勇ましく、スズメバチなど他の昆虫を羽で蹴散らしながら樹液を吸う姿を見かけることもあるようです。
また、飛翔能力が高く、近くに居る時にはその音が聞こえる程、鳥の様に力強くはばたいたり、滑空しながら雄大に飛びます。
オスは樹木の周囲に縄張りを作り、縄張りパトロールの飛翔は午後に多く行われ、西日を浴びて高い樹冠を活発に飛び回る姿を見かけられます。



結詞



気象の長期予報などで「バタフライ効果」という言葉がありますが、蝶の羽ばたきという小さなものが、竜巻のようなとんでもない現象を引き起こす要因になり得るというのがその名の由来のようですが、ほんの些細なことだとしても、それがあった場合となかった場合とでは、その後の状況が大きく変わるということのようです。



天気予報のジャンルでは昔よりもその精度は飛躍的に上っていますが、それでも遠い未来の天気を予測するのは簡単なことではありません。自然界を相手にしているため、そこには必ず誤差が生まれてしまい、その小さな誤差が後々大きな変化となって現れてしまうこともあります。



気象と同様、一昨年よりまるで「バタフライ効果」が広がったかのような新型コロナウィルス禍ですが、今年は行動制限も解除され、マスク着用など生活様式もほぼ感染拡大前に戻るようです。
しかし、コロナ禍の影響、物価高など先行きには不透明感も残ってはいますが、蛹同様やがて蝶となって羽ばたける時季が来ることを信じて、希望を胸に抱き、暖かな春の陽射しの中、蝶たちの優雅な姿を見守りながら、今年の春を満喫したいものです。



春分の日 春分




暦も陰暦では春本番の仲春をとなり、2023年は21日より、二十四節気は「春分」そして七十二候はその初候「雀始巣(すずめはじめてすくう)」と移ります。



雀始巣 すずめはじめてすくう




そして16日は春の社日(春社)そして18日より春の「彼岸」を迎えます。
彼岸や社日については後日、風物詩のカテゴリーに公開してありますので、ご参照ください。



彼岸

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